矢野健太郎先生の思ひ出
- 2009.10.27 Tuesday
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谷中の夕暮れ 6
- 2009.10.24 Saturday
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ブルーノ・ワルター
- 2009.10.07 Wednesday
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ヴォルプスヴェーデふたたび ふたたび
- 2009.09.27 Sunday
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夢のつづき
- 2009.09.22 Tuesday
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帰国
- 2009.09.19 Saturday
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ヴォルプスヴェーデふたたび
- 2009.09.17 Thursday
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朝早く、丘の道を歩いた。
ヴァイヤーベルク(麦の山)と呼ばれる標高50メートル余りのその丘は、いまは麦など見かけることもなく、人の背丈ほどに伸びたトウモロコシの畑が一面に広がっていた。丘の周囲を道が回っている。道から傾斜した土地の一角に、かつてマルティン・カウシェの家があった。マルティンとは10年ほど前に一度再会したが、そのとき彼はすでに80歳を越えていた。ブレーメンからバスに乗って不意にこの村に来て、むかしよく通ったヘンベルヒの店から彼に電話をすると、びっくりして、一体どこにいるのだと聞かれ、ヘンベルヒ・レストランにいると応えると、彼は真冬の凍てついた道を運転してすぐに会いに来てくれたものだ。手紙ひとつ寄こさずにこの20年間どうしていたのだと、いささか不満そうな顔をしていたが、あの優しい眼で私を眺め、すっかり変わってしまったヴォルプスヴェーデの様子を嘆いてみせた。
ヴァイヤーベルクの道を歩いてみても、マルティンはこの世を去り、あのころ大学の獣医科に進んだ息子のファビアンも、いまはこの村には住んでいない。私はゆっくりと丘の道を歩いた。昨夜、食事から帰る時刻には雨が降り出していたのだが、今朝、雲の切れ間からは清新な日の光が大地にこぼれた。そして午後には空はすっかり晴れ渡った。
今日は休暇だ、と私は自分に言い聞かせた。昨日まで忙しい毎日を過ごしてきたのだから、今日一日は素敵な時間を過ごしたい。昨日、リューベックの「ギュンター・グラス・ハウス」を訪ねた。総選挙が近いので、残念ながらグラス本人はリューベックには不在、ハレ、ドレスデン、ベルリンとSPD(ドイツ社会民主党)の応援団長は各地に選挙応援に忙しい。特に彼自身に用事があったわけではないので、彼の秘書と一時間余り話をして失礼した。帰り途、私はザンクト・アンネン修道院(現在は美術館)に寄った。ハンス・メムリンクの祭壇画に会うためだ。日本ではあまり知られないこの中世画家は、私見だが、フェルメールの真の師匠であり(時代はまったく違う)、その圧倒的な作品のレアリテは、わざわざリューベックを訪れるに価値あって余りある。数年前、ヨーロッパのどこかでメムリンクの展覧会が開かれていた。何かしら用件にかこつけて観に行きたいと思ったが、果たせなかった。だが昨日、リューベックの彼の祭壇画を観たことでその不満というかストレスは見事に解消した。グラスとの再会は果たせなかったもののリューベックに立ち寄った甲斐があった。そうして夕方、ブレーメンまで汽車を乗り継いで、駅前からヴォルプスヴェーデ行きのバスに乗り、ここまでやって来たのだが、変わり果てたブレーメン駅前や新しくできた高速道路に唖然とした。そうだとも、あれから30年も経っているのだ。
丘の道を降りて旧ヴォルプスヴェーデ駅に向かった。私が初めてこの村を訪れたのは1972年のことだ。高校生のころ夢中で読んでいたリルケを慕ってといえば聞こえがいいが、そうではない、偶然ここに来る機会を得たのだった。私は22歳だった。最初のヨーロッパ旅行の時だ。その経緯は拙著『芸術の非精神的なことについて』に詳細に記したのでここでは書かずにいたい。
そのころ汽車がこの村まで通じていた。ブレーメンから支線に乗り、たしかオスターホルツ・シャームベックで更にローカルな線に乗り換えるのだった。そして1977年の夏だったと思うが、私は村はずれにあるアトリエハウスに三ヶ月を過ごし、二年後ふたたび同じ家に三ヶ月住んだ。
駅舎から少し離れたところにあるアトリエハウスを訪ねてみた。戸口には「マルティン・カウシェ・アトリエ」という案内板が立てられていた。マルティンの死後、この施設の開設と管理に余生を捧げた彼を記念してそう呼ばれるようになったのだろう。

アトリエハウスから2キロほど、見渡すかぎりの牧草地のあいだの田舎道を歩くと、やがてハンメ河畔に出る。その先に広がるトイフェルスムーア(悪魔の沼地という意味だ)の道をずっと先まで歩いていった。あの夏、裸で水浴びをしたその沼を確かめたかったのだが、ついに見つけだすことは出来なかった。トイフェルスムーアの風景は30年前と変わらないが、周りの耕作地は様子が変わってしまい、晴れた日にいつも自転車に乗って泳ぎに行ったその場所は分からなくなってしまった。ここでも時間が過ぎていたのだ。
それから村に戻り、小さな美術館を三つ訪ねた。「グローセ・クンストシャウ」にはヴォルプスヴェーデ派の画家たちの絵が展示されている。隣には「カフェ・ヴォルプスヴェーデ」(ミシュランでペロチョンマークが付いたレストランだ。今夜、私はそこで食事をした)。「モーダーゾーン・ハウス」は私が暮らしていた時分にはなかった施設だが、パウラ・モーダーゾーン=ベッカーが息を引き取ったその家が小美術館に改装されていた。そして最後に、私の宿の隣にある「バルケンホーフ」を訪ねた。ヴォルプスヴェーデ派の代表画家ハインリヒ・フォーゲラーの暮らした家だ。

ライナー・マリーア・リルケは1901年友人フォーゲラーの誘いでこの家に滞在し、美術論集『ヴォルプスヴェーデ』を書いた。彼はここで知り合った彫刻家クララ・ヴェストホフと結婚、彼女の薦めでロダンを識り、やがてパリへと旅立っていった。ロダンのもとで数年を過ごしたリルケだが、ロダンとの確執を余儀なくされ、ミュンヘンに移住する。そこで我らがパウル・クレーの知遇を得ることになる。
カフェ・ヴォルプスヴェーデからの帰り途、漆黒の森を抜けると満天の星空がみえた。
ピレネー
- 2009.09.07 Monday
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クリシーの静かな日々
- 2009.06.19 Friday
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- by Makoto Shindo

すっかり時間があいてしまった。 そろそろ書かなければ貴重な読者を失うことになる。とてもブログを書く時間が無かった。3月以来、延々今までである。どうしてそんなことになったのか。この間、何があったか思い出すこともできない。老年の危機である。 59歳は老年とは言わないが、間違いなく老人性健忘症が始まっている。先週、歯が抜けた。ゆらゆらしてきたので、掛かりつけの渋谷の歯科医に行ったが、先生が手で抜いてくれた。手で抜いたのに手術代2,500円が請求に載っていた。手で抜こうがペンチで抜こうが手術代金には違いがない、ということだ。歯が磨きやすくなった。脳天気である。 ノルトライン・ヴェストファーレン州立美術館所蔵、ピカソとクレーの生きた時代展が5月末日終わった。昨年10月名古屋で開会してから約半年、これまでにない苦労を強いられた展覧会だった。 そうそう、思い出した。3月の末、NHK日曜美術館の取材でドイツとスイスへ行ったのだった。本放送は5月10日だったが、蝶ネクタイが好く似合いますね、とお褒めの言葉を方々から頂戴した。蝶ネクタイが好く似合ったのは、3月初旬のスタジオ録画のときで、それより海外取材の方が大変だった。 本放送をご覧になった高橋文子さんからメールが届いた。お叱りのメールだった。放送の中で、海外取材の部分だが、ルツェルンのフィッシャー画廊初代社長が「反ユダヤ主義者」とナレーションに入っていた。『新版 クレーの日記』を翻訳なさった高橋さんが、実はNHK海外取材の通訳を務めてくださって、彼女は休暇でミュンヒェンに滞在していたが、休暇を返上して取材旅行全行程に付き添ってくれた。フィッシャー画廊とは、1939年、ナチス没収絵画のオークションを行った画廊で、当時スイスでは国際的画商との関係を持っていた画廊の一つであったことから、ナチスがドイツ国内の公立美術館から没収した絵画の販路を託されたわけだが、フィッシャー氏ご自身は反ユダヤ主義者ではなかった。お孫さんに当たる当代の社長さんが取材に応じて下さったのだが、これまでこの種の取材には応じていなかったのだと思う、高橋さんの説得でインタビューに答えて戴いたのだ。 それなのに、初代フィッシャーさんを「反ユダヤ市議者」呼ばわりしてしまった。スタジオ収録の前に、海外取材部分を見せていただいたのに、私はそれを見逃してしまった。どれほど高橋さんが気を遣い、通常なら応じない取材に当代のフッシャーさんが応じてくれたか、結果として、私はそれを忘れてしまったのである。高橋さんの叱咤は当然であった。 一般的に日本人は、ヨーロッパ人にとって「反ユダヤ主義」という言葉がどれほど重いものか想像がつかないだろう。老人には、戦前の「反中国人主義」「反朝鮮人主義」の意味がお分かりになろう。「反ユダヤ主義」は、ヨーロッパ人にとっては、歴史的には、それ以上の重み(と申すか、罪悪)がある。この場合、海外取材の映像を事前に見せて戴きながら、「反ユダヤ主義」という表現を見落とした私の罪は非常に深い。蝶ネクタイどころではなかった。 つまりは、慌ててNHKのご担当者に連絡を取り、再放送では「反ユダヤ主義」の語をカットしていただいた。結局、関係各位みなさんにご迷惑をかけてしまったのだ。こうなると59歳も立派な老人である。おまけに、展覧会が開かれていた神戸が、選りに選って新型インフルのピンポイント地域となってしまい、再放送の時には展覧会の案内も省かざるを得なくなってしまった。展覧会は再放送の翌日から一週間閉鎖となってしまったのだった。 海外取材から帰って間もなく、神戸の展覧会展示作業のために、デュッセルドルフからアネッテ・クルツィンスキがやってきた。展示作業の予備日、私は彼女を連れて京都に行った。春たけなわの美しい日であった。 上の写真は、その日、彼女と訪れた竜安寺石庭。しだれ桜が満開であった。おそらく将来、この写真を見て、私は言うであろう、さまざまなことおもひだすさくらかな。 実は今回の海外取材で、私は初めてクレーの生まれ故郷ミュンヒェンブーフゼーを訪れた。放送にも出てくる、クレーが1933年スイスに亡命して後、画布に使うジャガイモ袋を貰いにいった農家は瀟洒な建物であった。 
東京・春・音楽祭
- 2009.03.15 Sunday
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- 15:39
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- by Makoto Shindo

気持ちのよい三月の午後だ。
「東京・春・音楽祭」にジェイミー・カラムが出演するわけではない。大きな音でジェイミーの"Twentysomething"を聴いていたら、思わず身体が動いてきて、椅子に座って踊っていた。日曜日の午後、踊りながらブログを書いている。世の中、春めいてきたということか。
「東京・春・音楽祭」は来月中旬まで、上野公園にある文化施設のさまざまな場所で大小のコンサートが開かれる。先週木曜日、オープニング・コンサートに招かれ、ピアノトリオを堪能した。ヴァイオリンの川崎洋介さん、チェロのケッセルさん、ピアノのセレフリャーニさんはジュリアードの同窓生であるらしく、ニューヨークを中心に演奏活動を行っている。
シューマン、シューマン、シューマン、メンデルスゾーン、アンコールにシューベルト。室内楽は音楽の「ことば」を聴くのにもっとも適している。シューマンとメンデルスゾーンとシューベルトの言葉がどう違って、どう共通しているのか、すこし解ったような気がした。至福の時間であった。
ひとつ気が付いたのは、最初と2曲目のシューマンは、チェロ、ヴァイオリンそれぞれとピアノ伴奏の曲で、3曲目にピアノトリオだったが、トリオになってから三者の音が俄然佳くなった。独奏とアンサンブルの違いというか、これもどうやら音楽的言語に由来するものらしく、三人の演奏は「一人の三倍」以上であったのはアンサンブルの妙味としか言いようがない。
会場は国立科学博物館の「講堂」という(初めて入ったが)、これまた何とも古風な、大正か昭和か、それとも明治か、和洋折衷の洋風な講義室で、タイムスリップしたような雰囲気も良かった。帰りがけ、展示室の一部が見え、上野動物園初代パンダ「ランラン」の剥製が展示されていた。先月から、谷川晃一さんと女子高生のように(谷川さんは70歳、私は58だが)三日に明けずメールの交換が続いているが、それぞれ「タニタニ」「シンシン」とパンダ名でメールを書き、福建省タニタニとか黒竜江省シンシンとか署名するのだが、ランランの剥製を目の当たりにして、ああ、われわれはとても本物のパンダには適わないと、実に奇妙な感想を抱いた。
昨夜、南青山の「無尽」で、『クレーの食卓』出版記念会を開いた。40名ほどの方が参加してくださった。高熱で倒れていたキュレイター林はすっかり元気になったが、記念会にお出しする料理やケーキを前日から自宅で作りはじめ、また倒れるのではないかと心配したが、どうやら全快した様子だ。今日は午前中から文化村の展覧会ショップに立って、ちょっとでも『クレーの食卓』に興味のありそうな顧客を見つけるとニコニコしながら傍に寄っていって、キャッチセールスに忙しいらしい。著者の鑑である。ありがたいことだ。私はジェイミー・カラムに合わせてロックンロールで踊っているというのに。
「東京・春・音楽祭」のプログラムのひとつ、4月13日「こどものための音楽会 佐藤俊介ヴァイオリン 絵と音楽 パウル・クレー」には私も出演する(東京文化会館・小ホール)。パンダの剥製が飾ってある会場でなくて残念だが、短時間、こどもたちにクレーの話をするので、さて、いったい、どんなことを言えばいいのかと、頭を巡らせている。その前に今週土曜日から月末までドイツとスイスへ。デュッセルドルフ、ミュンヘン、バーゼル、ベルンを訪ねる。旅行中、想を練ってみよう。
帰国してすぐ4月3日(金)には、代々木のオリンピック記念青少年センターで、昨年暮れブリヂストン美術館ホールで開いた「クレーの詩 クレーの音楽」のオーケストラ版コンサートがある。ここでは『日記』と『手紙』のテキストをふたたび朗読する。小林クロードが主宰するアンフィニ・サロンオーケストラ大編成に加え、今回、メゾソプラノのワレンチナ・バンチェンコさんが特別出演!乞御期待。是非こちらにもお出かけいただきたい。
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