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台峯日乗 82
- 2014.07.29 Tuesday
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- 18:32
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- by Makoto Shindo
4月以来ブログを書いていなかった。
忙しいわけではなく、ブログ記事への興味が薄れてきたせいだ。面倒に感じている事情もある。ただ、ブログを読んで「あぁ、あいつまだ生きてる」と思ってくれる読者も多いので、安否確認でたまには投稿しなければならないのも当然だ。猛暑で頭脳が働かない、横柄な物言いをお許しいただきたい。あいかわらず旅の話題だ。
暗くて顔が分からない上の写真は、右がシュテファン・フライ、左が筆者、スイス・ベルンアルプスの裏側、イタリア国境にほど近いヴァレー地方のエッギスホルンに登った。登ったと云っても脚で登ったのではなく、ベルンから列車を乗り継ぎフィエッシュ駅からロープウェイに乗れば簡単に行ける。シュテファンが汽車賃も何もかもおごってくれた。
というのも、6月下旬、私は娘を連れてヨーロッパ旅行に出掛け、娘には12年ぶりのヨーロッパだが、あのとき訪ねたベルン・アルプスの山をもう一度歩きたいと彼女が云い、それを聞いてシュテファンが、いや、もっと高い山から氷河を眺めようと云って、私たちをエッギスホルンまで連れていってくれた。急ぎの論文があって、申し訳ないが滞在中はお相手ができないと伝えてきたシュテファンだったが、この日、むりやり時間を作って雪山に私たちを招待してくれたというわけだ。
左下に見えるのがアレッチャ氷河、アルプスではいちばん長い(32キロだったかな)、写真はむろん娘が撮ってくれたが、パパは渋谷にいてもアルプス山頂にいても服装がまったく変わらない!と大笑いしていた。それにしても360度のパノラマは滅多に眺められる風景ではない、幸い天気予報に反して、ときに雲にも覆われたが、それから山道をしばらく歩いて隣の集落まで行った。
二週間、娘と二人きりの旅行などたぶん最初にして最後であろう。クレーセンターを案内した。バーゼルのバイエラー財団ではゲルハルト・リヒターの大回顧展が開かれていた。ここ数年、何処へ行ってもリヒター回顧展に出くわすが何度観ても面白い、娘がリヒターを観るのは初めてだったが、基本概念を説明してあげたらとても興味を示して熱心に眺めていた。丹念に見おわってから、頭パンパンだよと漏らしていたが。後日、娘を南仏の友人宅に送り届けてから(彼女はここに8月中旬まで滞在するのだが)、私はひとりドイツを回り、途上、ドレスデン美術学校の卒業制作展を見学したのだが、同校には「リヒター伝統」のようなものが受け継がれているのを目にした。まあ流行り物ではあるが。
二人でパリへ出て連歌仲間の瞬星を訪ねた。瞬星の招きでフレンチをご馳走になったが、生まれて初めての本格的なフレンチに彼女はいたく感激した。趣味人の彼らしく気取った店ではなく、フランス人のためのフレンチレストランだから、彼女の初めてのフレンチはオーセンティックなものであった。30年ぶりに凱旋門の屋上へも行ったし、ポンピドー・センターで展示も観た。ポンピドー・センターのフレームの間からサクレクールが見える。近くのクレープ屋さんで美味しい昼食も食べた。
それからロンドンへ行き、旧友アンドリュー・サンダースを訪ねた。娘は彼のフラットでランチやサパーを一緒に作って満足していた。翌日は三人でキューガーデンへ。2年前だったか、3年前だったか、久しぶりにロンドンへ行った私は彼とキューガーデンへ行った(たしか当欄に記事を書いた)。それは3月初旬のまだ寒い時期で花はなにも咲いていなかったが、いまは園内何処へ行っても花盛りだ。
これは出発前からの約束だったのだが、ハーマジェスティ劇場に『オペラ座の怪人』を観に行った。私は25年前の初演を観ているが、そのとき娘はまだ生まれていない、幕が上がった瞬間、二人ともポロポロ泣いた(泣いた理由は別々だ)。なぜ泣いたかは面倒だから書かない。ロンドンのパブで、フィッシュアンドチップスを一度食べてみたい、という彼女の願いであったが、折からワールドカップのパブリック・ビューで試合の日は立ち席、タイミング悪く、この願いだけは果たしてあげられなかった。
パリへ戻った日、旅の疲れが出たのか、ふたたび瞬星がフレンチに連れていってくれる予定だったのが、残念なことに娘はホテルで休んでいなければならなかった。体調を整え、雨模様になったパリを離れて、私たちはTGVでアヴィニョンへ向かった。駅にアリョーシャ・クレーが出迎えてくれた。
私は娘をクレー家に送り届けてすぐにドイツに引き返す積もりでいたのだが、あんた、折角カヴァイヨンまで来たのに一泊で帰ることはないでしょうよ、と妻君のアネットに叱られ、ベルリンでの会合をキャンセルしてもう一泊留まることにした。翌日はみんなでサンレミまで食事にいった。本当に久しぶりだった、夏の陽光を遮る中庭のテントの下で、私はようやく、父親らしいこと(元来そんなものは無いのだが)を怠ってきた10年余りの日々をやり過ごしながら、この夏、娘の願いを叶えることができたと思った。夢のような、まるで新婚旅行のような旅を終えて、私は仕事に戻った(これも嘘だ、私には人生と仕事との境目がわからない)。チャンチャン
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